【ハロウィン】Halloween
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街が騒がしい。

普段の日でもプロンテラの中央通りはものすごい数の露店と人でごった返しているので騒がしいのは当然だが、
ここ聖職者寮は、大聖堂付近にある閑静な場所だ。
その寮内にいても、今日は明るい人の声や音楽が聞こえてくる。

窓から外を眺めると、街路樹にオレンジのキラキラ光るテープがくるりと巻かれていて、所々に目鼻のあるかぼちゃを模した飾りがつり下げられていた。
道往く人は変わったお面をつけていたり、全身仮装をしている者もいる。

そして、口々にこの日特有のあいさつをする。

「Trick or Treat!」

…そう、今日はハロウィンだ。

街全体が浮足立った様な、祭り独特のこの雰囲気は嫌いじゃない。
…が、人ゴミの中に出かけるのは気が進まない。

窓辺から離れ椅子に戻ると、テーブルにあるコーヒーを一口飲んだ。
向かいの席では、コロがテーブルの真ん中に置いてある林檎程のサイズのジャックランタンを面白そうに眺めながら、
以前に買ってやったスケッチブックにクレヨンでその絵を描いている。
ジャックランタンは、昨晩外食した先の店で客に無料配布していたものだ。

ジャックランタンはもちろん、ハロウィンすら知らなかったコロに、ハロウィンについて聞かれた。
あまり本当のことを言うと面倒になりそうなので、かぼちゃの神様に感謝する日だと適当に言っておいた。
ささやかだが、これで俺とコロのハロウィンは終―――――

「とるぃーーーーっく!えーーーんど!とっるぃーーーーーとぉおおおお!」

突然入口のドアがどかーんと開き、ジルタスが部屋に入ってくると持っていた鞭で床をしばいてぴしゃーーーんとイイ音を立てた。

びっくりしたコロが慌ててこちらへ来て俺にしがみつく。
コロを抱きとめてやりながら、警戒するが、すぐに警戒は脱力へと変わった。

入り口に立っていたのは、ジルタス―――――の、コスプレをしたヒルドだった…。

「………andじゃない、orだ」
「あたしの場合はandでいいのよ!お菓子もイタズラも好きだから!」
「威張って言うことじゃない」

しがみついていたコロが、その反論がヒルドの声だと気づいて顔をあげた。

「わーヒルドだーv」
安堵したコロが、ヒルドに抱きつきに行く。

「おーコローv久し振りねーv元気だったー?」
コロを抱きしめ、頬ずりしながらヒルドが言う。

「………そのカッコでここまで来たのか…?」
二人の再会がひとしきり済んだのを見計らって聞いてみる。

「あったりまえじゃない♪今日はハロウィンよー!」
「………」

そうだった。
ヒルドはどういう訳か、ハロウィンが大好物なのだ。
他の祭りも嫌いではないし人並みに騒いで楽しんでいるが、ここまでテンションが上がるのはハロウィンだけだ。

「思った通りだわ…。あんたのことだから、コロちゃんに正しいハロウィンの楽しみ方を教えてないだろうと思ったのよねー」

ふう、とワザとらしく両手を肩の高さで広げ首を左右に振りながらため息。

「ハロウィンは間に合ってる」
「さ、外にでかけるわよー!さっさとこれにお着がえっ!」

そう言って、俺の言葉を華麗にスルーしたヒルドが持っていた荷物から服を取り出しばさっとこちらへ投げつけてきた。

「………」

広げてみると…

………、

「こんなもん着れるかーーっ」

俺はインキュバスの衣装を床に叩きつけた。

「まぁ、あんたにはハードル高いわよね。じゃあ、こっちならいけるでしょ」

そういってもう一着投げてよこす。
広げてみると、赤色をした法衣に似た服で、ぼろぼろのシルクハットの様な帽子…。

「もしかして、イビルドルイドの衣装か?」
ご丁寧に、足枷を模した飾り(?)の付いた靴まである。

「あったりー♪それならいけるでしょ」

………まぁ確かに、インキュバスに比べれば………と、そこまで考えてはっと我に返る。

「ち、違う違うっ、着れるか着れないかじゃないっ。仮装自体する気がないんだっ」

俺は慌てて、イビルドルイドの衣装を椅子に置いた。
危うく、初歩的な詐欺の手口に引っ掛かるところだった…。

「コロちゃんはどうー?お祭り楽しいわよー♪遊びに行きたいよねー?」
「うん、行きたい♪」

わかっているのかいないのか、ちゃんと考えたのかもすら怪しい間で即答するコロ。

「ほら、コロちゃんが行きたいって言ってるんだから、保護者のあんたが行かなきゃ始まらないわよ」
「二人で行けばいいだろう」
「ディーは行かないの?」

コロが、俺を見上げて聞いてきた。

「ヒルドがいるから心配ないだろう。二人で……」
「ディーも一緒がいい」

コロが、きっぱりとそう言った。

「ディーが行かないなら…僕も行かない…」
「……………」

あからさまに残念そうな顔をするコロ。
まるで散歩に出してもらえない子犬だ。

「………わかった。……わかったよ…」

折角の祭りなのに、暗い気分にしてしまうのは忍びない。
観念して、付き合ってやることにした。

「そうと決まれば、コロちゃんはこれに着替えてねーv」

ヒルドがコロに何か服を手渡した。
念のため横から取り上げて確認してみると…

「………ヘンタイかお前は」

キャットナインテイルの衣装をヒルドに突き返す。

「せっかくディーが喜ぶと思ってー」
「誰がだっ」
「それ着たら、ディーが喜ぶの?」
「喜ばない。お前は気にしなくていいから…。ヒルド、他に何持ってきたからみせろ。俺が決める」
「とか何とかいって、サキュバスとか選ぶつもりでしょー」
「選ぶかっ!」



「んーvすっごく似合ってるわよコロちゃんv」

プロンテラの中央通りを目指して道を歩きながら、ヒルドが言った。
俺の選んだ衣装、ジャックのコスプレをしたコロが嬉しそうに笑っている。

「ヒルドもかっこいい♪」
「おほほ、ありがとv」
「ディーもかっこいいよー」

俺とヒルドの間で、それぞれと手をつないでいるコロが俺を見上げて言う。

「…そりゃどうも」

俺は生返事をしながら、周りを見ていた。

仮装している人は思ったより多く、俺達は思ったより目立たない…というか、これくらいの仮装している方が今はむしろ自然な感じだった。
モンスターの仮装や着ぐるみはもちろん、中には男装や女装をしている者もいた。

「Trick or Treat!」

大通りに差し掛かったところで、ウィスパーの様な布を被った複数の子供が、俺にそう言ってきた。
お菓子を持っていなかった俺の代わりに、ヒルドが子供の持っている紙袋にキャンディを入れてやる。
子供は大喜びし、走り去っていく。

二人のやり取りを、コロが不思議そうに見ていた。

「ハロウィンのお祭りではな、“トリックオアトリート”って言うと、お菓子を貰えるんだ」
「とりっくありーと?」
「トリック・オア・トリート。お菓子をくれなきゃイタズラするぞ、って意味だ」

もう一度ゆっくり言って、コロに教えてやる。

「例えば…」

俺は大通りの人ゴミを見回し、かぼちゃ頭を被ったジャックランタンの着ぐるみを見つけた。
恐らく、近くのお菓子屋の従業員の着ぐるみだ。沢山のお菓子が入った籠を持ち、子供たちに配っている。

「…ほら、あそこにかぼちゃ頭の奴がいるだろ。あれにトリック・オア・トリートって言ってみろ」
「うん」

コロがててて、と、かぼちゃ頭に近づき、

「と、トリットアトリート!」

……間違ってるし。

だが、かぼちゃ頭は何とか理解してくれたようで、持っていた籠からチョコレートを取り出してコロに渡し、彼の頭をぽふぽふと撫でた。

「ありがとう!」

コロが走って戻ってきた。

「これ!くれたの!」

コロが苺ほどの大きさの銀紙に包まれたチョコレートを俺に翳す。

「よかったわねコロvどう?ハロウィン楽しいでしょ♪」
「うんっ!」

ヒルドの問いにキラキラした目で頷いて答えるコロ。
人ゴミは嫌いだが、この笑顔を見られたならまぁ…この労の見返りとしてはありかな、とも思った。

それから俺たちは、しばらく賑わう街を歩き、みて回り、プロンテラに満ちたお祭り騒ぎに興じた。



街が、飾り付けられたジャックランタンの魔法灯の明かりに照らされる頃、俺とコロは聖職者の寮へと戻ってきた。

「ふう…」

服も着替えず、ベッドにとりあえず腰を掛ける。

「面白かったねー」

テーブルに、紙袋を置きながらコロが言う。
紙袋の中身は、道中「トリックオアトリート」で手に入れたお菓子が詰まっていた。

「ねぇ、ディー」
「なんだ?」

呼ばれて返事をすると、

「トリックオアトリート!」

そう言って、コロが飛びかかってきた。

「!」

コロを受け止めるが遠慮のないその勢いでベッドにぶっ倒れる。

「お、お前なぁ…」
「ディー、トリックオアトリート♪」

コロが、俺の顔を覗き込んでもう一度言った。

「……お菓子をくれなきゃ、イタズラするぞ、か?」
「うん」
「…どんなイタズラ考えてるんだ?コロは」
「えっとねぇ、…あれ、一緒に食べるの」

そういってコロが指さした先には、テーブルにあるお菓子の詰まった紙袋。

「………、」

それは、イタズラじゃなくてバツゲームじゃないのか…?
でもまぁ、甘いものが苦手な俺には有効な手段ではあるか…。

そう思いながら俺は、上着のポケットをごそごそと探った。
そして、コロの目の前に紫と黄色のストライプの包装紙にオレンジのリボンという、ハロウィンを意識した派手な梱包の箱を差し出す。

「コロのイタズラが怖いから、買っといた」

コロが驚いた表情で俺を見る。

「どうした?」
「……ディー、お菓子なんて持ってないと思ってたの」
「じゃあなんでトリックオアトリートって言ったんだよ。本気でイタズラするつもりだったのか?」
「ち、違うけど…」

思わず苦笑してしまう。

「まぁいいから。開けてみろ」

俺が促すと、コロはこくりと頷いて、箱を受け取り不器用に一生懸命梱包を解いていく。

「お菓子!と、カップ!」

中身を取り出したコロが瞳を輝かせた。

それは、小さめのマグカップに売っていたハロウィン限定のキャンディが詰まっているものだった。
コロとヒルドが路上のパフォーマンスに見入っている間にこっそり買ったものだ。

「今あるマグカップじゃでかすぎて、お前いつも飲みきれないみたいだからな。
その大きさなら丁度いいだろう。…ま、お菓子のついでに―――――」

言い終えないうちに、コロが抱きついてきた。

「こ、コロ…」
「ディー大好きっ」

そういって、お得意の頬ずりをしてくる。

「わ、わかったから、放せって…」

いつもならもっと強く抵抗するのだが、今日は外出してたこともあって少し疲れていた。
だから今日は特別に、コロにされるがままになってやった…。

そしてそのままつい、俺もコロも、眠ってしまった。

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【終】end

 

MagiNight 野分シムロたんに戴きました2009ハロウィンSSですvv
お持ち帰り自由!との事でしたので遠慮なく(`・ω・´)++
個人的にディーのインキュ姿が見たかったよ!!って言ったら笑われましたww
二人がかわゆくて仕方ない…ええ、コロだけでなくディーも可愛いんだ!(ちょwww
もうもう、存分に癒していただきましたvvv
シムロたん有難う!ご馳走様でしたvvv

…ところで次回の配布マダァ?(*'ω'*)←